魚屋北渓・貝つくし

 やはり、魚屋北渓(ととやほっけい)に、貝を写した優品があり、
一昨年の写楽・幻の肉筆画―ギリシャに眠る日本美術―マノスコレクションより」
写楽の魅惑的で繊細すぎる肉筆に固唾をのみ、そして、
北渓の小さな狂歌摺物「貝つくし」にも、見惚れたのを思い出しました。
海産物屋(魚商)出身だけに、魚介類を描いたものには、こだわっている北渓です。
巻貝や鮑(アワビ)など、形態の面白い貝を描いたものは多々ありますが、
このシンプルな二枚貝を大きく取り上げ、ナイーブな形や脹らみなど、その造形美を
丁寧に写しとったものは少なく感嘆させられます。


師である北斎の娘・葛飾應為(おうい)[北斎が「おーい」と呼んでいたから名づけられた]が
思いを寄せていたと言われる魚屋北渓は、やはり魅力ある絵師だったのでしょう!
作品は、魚介以外にも魅力的な秀作がみられ、当時の最高である彫りや摺り
(ボカシ、空摺り、金、銀等)を駆使していてインパクトのある作品を残している。
この「貝つくし」にも、ベースには、うすい藍のあてなしボカシをはじめ、貝甲にも
繊細な技巧をつくした表現が読み取れる。
しかし、署名の北渓の「北」の字は、なぜこんな書体なのかな―不思議。

喜多川歌麿「潮干のつと」(狂歌絵本の見開き右側)
散らしたり重なる貝の構成はなかなかで見あきない、白黒の浅蜊(?)など、ポイントが高く
さすが、瀟洒で伊達で粋な歌麿です。
転載:「写楽・幻の肉筆画―ギリシャに眠る日本美術―マノスコレクション」展カタログ
転載: 喜多川歌麿「潮干のつと(しおひのつと)」 国立国会図書館 WA32-7

http://www.ndl.go.jp/exhibit/50/html/wa32-7/mokuji.html