画家・銭選(せんせん)の「牡丹図」と「官女図」


かって「能・石橋」の勇壮な紅白の牡丹を見て以来、ますます気になる存在の花ですが、
以前から上野東照宮の牡丹園は、時期になると素通りできず、寒牡丹や春牡丹をのぞいては、
この東洋でもてはやされる花の魅力を探っていた。
今回の徳川美術館では、なんとも純蘭豪華な「富貴な花」の供覧の数々に出会い満喫させられる。

伝・銭選(せんせん)の牡丹図は豊潤濃密で、細密な描写は圧巻すぎ固唾をのむ思い。
薄墨桜を愛でる民族との差異を痛感させられる。

伝・銭選筆の「牡丹図」二幅図の部分
銭選は13世紀・中国・元時代初期の文人画家で生没年未詳だが、1235年前後から
1301年頃まで……。興味深いのは、遺民画家と言われ、前王朝への忠節の心を守り
あらたな元王朝に仕えるのを拒み、描きつづけた画家とある。
複写・徳川美術館「王者の華・牡丹」特別展カタログ2010年

2年前に、同美術館で見た、印象強い「官女図」も、銭選(銭舜挙)の筆であった。
徳川美術館特別展「室町将軍家の至宝を探る」展 2008年秋

男装した宮廷の女官を描き、指先の爪をみつめる手の仕草や、うららかな横顔は、
フェルメール以上だ! 朱色のみの衣服もなかなか…
腰には横笛が…、画中に楽器をしのばせると、絵が軽やかで、ふくよかになるな―
マチスが、よくやっているかも―
しかし、13世紀に、男装の女官、爪を見つめる眼差し、妖艶な手の仕草と小指。
そして、画面中央に、唯一斜めの直線で配された横笛(玉笛)。驚きの名画・人物像だ!
そして、媚びることのない気品がただよう画面は、遺民画家ならではの画品か!
複写・徳川美術館特別展「室町将軍家の至宝を探る」展2008年 カタログ